ハトはピカソとモネを見分けられる?動物の芸術識別研究とは
ハトが「ピカソ」と「モネ」の絵画を見分けられる──そう聞くと冗談のようですが、1995年の研究で実際に明らかになった事実です。 動物の認知能力や、ハトの知能、絵画識別に関する代表的な研究として今も注目されています。
この研究の核心を一言で言えば、 「ハトは画風(スタイル)を学習し、ピカソとモネを分類できる」ということ。
英文タイトルは “Pigeons’ discrimination of paintings by Monet and Picasso” 直訳すると「ハトはモネとピカソの絵画を識別できるか?」です。
どんな実験だったのか?ハトはどうやって絵を見分けたのか
研究者たちは数十羽のハトを対象に、モネとピカソの絵画を識別させる実験を行いました。 「ハトが芸術を理解できるのか?」という疑問に科学的に挑んだ画期的な研究です。
■ 実験方法(絵画識別タスク)
・タッチパネルに絵画を表示
・「モネを選ぶとエサがもらえる」など報酬を設定
・正解を学習させ、反応の精度を測定
・慣れたら“見たことのない新作”も出して識別能力を検証
■ 結果
・ハトは知らない絵でも **70〜80%の精度** で正しく識別
・モネの「柔らかい筆致」 vs ピカソの「抽象的・幾何学的な線」 → これらの“特徴”をカテゴリとして判断できた
つまりハトは、単なる絵の記憶ではなく、 画風のパターンそのものを認識していたのです。
なぜこんなことが起こる?動物の“パターン認識能力”とは
人間だけが芸術を理解する──そう思われがちですが、 動物にも優れた「パターン認識能力」があります。
■ パターン認識とは?
色、線、コントラスト、形などの情報をまとめ、 対象の特徴を抽象的に“ひとつのカテゴリ”として理解する能力。
ハトはこの能力が特に発達しており、 ・人の顔の判別 ・絵と写真の区別 ・文字の識別 など、驚くほど高度な視覚認知が可能です。
絵画鑑賞をしているというよりは、 「この線の角度はピカソ寄り」 「この色のにじみ方はモネっぽい」 という特徴判断を機械的に行っているイメージです。
この研究が教えてくれること:芸術と認知の境界線
この研究は、芸術理解と認知処理の違いをくっきり示しています。
・芸術鑑賞は主観的で感情的 ・画風識別は客観的な特徴分析
ハトが行っていたのは後者、 つまり「芸術の構造的特徴を抽出する」能力です。 芸術家の“クセ”、筆致、構造──こうした要素は数値的に分類できるため、 ハトのような動物でも理解可能なのです。
日常にある“画風識別”のあるある例
- ブランドの広告だけで「Appleっぽい」「GUCCIっぽい」が分かる
- 字の書き方で「几帳面な人」「大雑把な人」を判断する
- SNSの文章で「あ、この人だ」と気づく
- 声のトーンで相手の機嫌がわかる
- ファッションや配色で「韓国系」「ストリート系」がすぐ分かる
どうすればこの認識力を高められる?
1. 物事を構造で見る癖をつける
「線」「形」「色」の要素ごとに考えると観察力が上がる。
2. 比較対象を並べて見る
2つ以上比べることで差分が明確になる。
3. 多くの例に触れる
ハトが“学習量”で精度を上げたように、人間も量が重要。
4. 特徴を言語化する
「柔らかい」「直線的」「明るい」など言葉にすると認知が安定する。
まとめ:ハトは芸術を理解しているのか?
ハトは芸術家ではありません。 しかし、ピカソとモネを“画風で判断できる知能”を持っています。 この研究は、動物の知性の奥深さ、人間の芸術の構造性を同時に示してくれる貴重な実験です。
私たちも日常のあらゆるところで、 無意識に“パターン認識の芸術鑑定”を行っています。 今日、あなたはどんな特徴を見抜きましたか?
参考文献
- Watanabe, S., Sakamoto, J., & Wakita, M. (1995). Pigeons’ discrimination of paintings by Monet and Picasso. Journal of the Experimental Analysis of Behavior.
- https://doi.org/10.1901/jeab.1995.63-165

コメント