オーストラリアに生息するウォンバットは、「四角いうんち」をする動物として有名です。
丸いフンが当たり前の世界で、なぜ彼らだけがサイコロのようなキューブ状のうんちを生み出せるのか――この謎に本気で挑んだ研究が、2018年のイグ・ノーベル物理学賞を受賞しました。
本記事では、「Why Do Wombats Poop Cubes?(なぜウォンバットのうんちは四角いのか?)」という研究をもとに、実験の内容や物理学的な仕組み、そこから見えてくる“生き物とデザイン”の奥深い関係を、やさしく&ちょっと笑いながら解説していきます。
ウォンバットの四角いうんち研究とは?
この研究を行ったのは、パトリシア・ヤン(Patricia J. Yang)らの研究チームで、論文は2018年に物性物理系の学術誌「Soft Matter」に掲載されました。
彼らが挑んだ核心は、一言でいうと「腸の中でなぜ立方体ができるのか?」という問いです。
タイトルは “How do wombats make cube-shaped faeces?”(ウォンバットはいかにして立方体状の糞を作るのか?)。
つまり、「ウォンバットは食べ物を立方体のうんちに加工する“生体3Dプリンター”なのでは?」というレベルで、腸の構造と物性をガチで解析したわけです。
どんな実験だったのか?
研究チームは、事故などで死亡したウォンバットの腸を用いて、消化管の形や硬さを詳しく調べました。
腸を縦方向・横方向に切り出し、それぞれの弾性(どれくらい伸び縮みするか)を測定することで、「腸のどの部分がどれだけ柔らかいか・硬いか」を数値化したのです。
特に注目されたのは、直腸(うんちが最後に通過する出口付近)の部分。
ここでは、腸壁の「伸びやすさ」にムラがあり、一部はよく伸び、一部はあまり伸びないという“パッチワーク状”の弾性分布があることがわかりました。
研究者たちは、これをモデル化するためにゴムのような弾性体のシミュレーションも実施。
「柔らかい部分」と「硬い部分」が交互に並んでいる管の中で、半固体状の物質(うんち)が押し出されるとどうなるかを計算したところ――断面がだんだん“角張って”いくことが示されました。
結果として、ウォンバットのうんちは腸の中を進むうちに、丸い筒状から、角ばった直方体、そしてほぼ立方体に近い形へと変形していく、というメカニズムが提案されたのです。
なぜこんなことが起こるのか?物理学的な仕組み
ポイントは、「腸の弾性が均一ではない」という点です。
多くの動物では、腸の壁は比較的均一で、内側を流れる物質は丸みを帯びた“ソーセージ型”のフンとして外に出てきます。
しかしウォンバットの場合、直腸の一部は柔らかく、別の一部は硬い、という不均一な構造をしています。
柔らかい箇所はよく伸びるので、うんちがそこを通るときに“引き伸ばされる”ような力がかかり、逆に硬い箇所ではあまり変形せず、エッジが残りやすくなります。
この「伸びる部分」と「伸びない部分」が繰り返し現れることで、うんちの表面に角が生まれ、最終的にサイコロのような“キューブ形状”が完成するというわけです。
よくある誤解として、「乾燥して角ができるのでは?」という説がありますが、研究チームは腸管内部の物性を測ることで、「乾燥ではなく、腸そのものの力学的性質が主役」であることを示しました。
つまり、ウォンバットは“乾かして立方体にしている”のではなく、“腸の形と硬さ”という設計によって、うんちを立方体に“成形している”ということになります。
この研究が教えてくれること:キューブうんちの生態学的メリット
では、なぜわざわざ四角いうんちである必要があるのでしょうか。
研究者たちは、「四角いからこそ転がりにくい」という点に注目しています。
ウォンバットは縄張りを主張するために、岩の上や倒木の上など、目立つ場所にうんちを置きます。
もしうんちが球体であれば、コロコロと転がって落ちてしまい、マーキングとしての役目を果たしづらくなります。
一方で立方体であれば、角があるためその場にとどまりやすく、「ここは自分の縄張りだぞ」という“看板”として長く機能するのです。
つまり、ウォンバットの四角いうんちは、単なる奇妙な現象ではなく、「縄張りをうまく主張するための生態学的な適応」とも考えられます。
物理学の視点で見れば、弾性体の変形という面白い問題ですが、生物学的な視点では、「環境に適応した結果としてのうんちデザイン」という奥深い物語が隠れているわけです。
日常で見られる“形と機能”の例
ウォンバットの四角いうんちの話は、一見すると笑い話ですが、「形と機能はセットで考えるべき」という重要な視点を教えてくれます。
日常生活にも、同じような例がたくさんあります。
- 六角形のハチの巣:最小の材料で最大のスペースを確保できる“理想の形”。
- ペットボトルの底の形:圧力や衝撃に耐えるための凹凸デザイン。
- 段ボールの波型構造:軽さと強度を両立するための内部構造。
- ゴムタイヤの溝模様:雨の日でも滑りにくくするためのパターン設計。
- スマホの角の丸み:落下時の衝撃を和らげ、持ちやすさも改善するカーブ形状。
どれも「形」が単なる見た目ではなく、「機能」を最大化するために進化・工夫されてきた結果です。
ウォンバットの立方体うんちも、それと同じく「縄張りをマーキングする」という機能に最適化された“形の進化例”と見ることができます。
どう活かせるのか?キューブうんちから学べる3つの視点
では、このユニークな研究を、私たち人間の日常や仕事にどう活かせるのでしょうか。
ここでは3つのヒントとしてまとめてみます。
① 「ヘンな現象」を見逃さない好奇心
「なんでウォンバットのうんちだけ四角いんだろう?」という素朴な疑問から、この研究は始まっています。
「変だな」「面白いな」と思った現象をスルーせず、少し掘り下げてみることが、新しい発見への入り口になります。
② 形と機能をセットで考える癖
デザインやプロダクトづくりの場では、「見た目」と「使いやすさ」がしばしば対立しますが、本来は両方を一緒に考える必要があります。
ウォンバットのうんちは、「転がりにくい形(四角)」と「マーキングの機能」がぴったり噛み合った例です。
③ 専門分野をまたぐ視点
この研究は、生物学・物理学・材料科学がクロスした典型的な“学際研究”です。
自分の専門の外にある知識を少し取り入れるだけで、問題の見え方がガラッと変わることがあります。
日常の仕事でも、「別の業界ならどうしているか?」と視点を変えてみると、新しい解決策が見つかるかもしれません。
まとめ:笑えるけど、意外と深いウォンバットのうんち物語
ウォンバットの四角いうんちは、見た目のインパクトから“ネタ”として語られがちですが、その裏側には、腸の弾性という精巧な物理メカニズムと、「縄張りを守る」という生態学的な意味が隠れていました。
「なぜ四角いのか?」というシンプルな疑問に対して、本気で測定し、モデル化し、数式まで持ち出して解き明かす――この姿勢こそ、イグ・ノーベル賞らしい“笑って、考えさせられる”科学の姿だと言えます。
あなたの身の回りにも、「よく考えたらこれ、なんでこうなってるんだろう?」という不思議な現象はありませんか。
次に何かヘンなものを見つけたときは、ウォンバットのキューブうんちを思い出して、少しだけ“研究者モード”で眺めてみると、新しい発見があるかもしれません。
参考文献
- Yang, P. J., et al. “How do wombats make cube-shaped faeces?” Soft Matter, 14, 1290–1296, 2018.
- Ig Nobel Prize Official Website – Physics Prize 2019(ウォンバットの立方体糞研究に関する紹介ページ)
- その他、ウォンバットの生態および腸の構造に関するレビュー論文・解説記事
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