オペラがマウスの命を救う?音楽が心臓移植の成功率を高めた驚きの研究【イグ・ノーベル賞】
マウスにオペラを聴かせたら?
2003年、東京大学医学部のチームが発表した研究が世界を驚かせました。 「オペラを聴かせたマウスは、心臓移植後の生存期間が延びる」――。 この発見はイグ・ノーベル賞(医学部門)を受賞し、世界中で話題になりました。
研究の核心をひとことで言えば、「音楽が免疫系を変える」ということ。 ストレスを軽減し、免疫抑制反応を調整することで、移植臓器が拒絶されにくくなったのです。
英題は「The Effect of Opera on Mice Transplants(オペラがマウスの移植に与える影響)」―― 科学と芸術が交わる、まさに“心に響く”研究でした。
どんな実験だったのか?
研究を行ったのは、東京大学医学部の高橋雅彦教授らのチーム。 実験では、遺伝的に異なるマウス間で心臓移植を行い、 それぞれの群に異なる音環境を与えました。
グループ分けは以下の通りです。
- ① クラシック音楽群(モーツァルト、ヴェルディなどのオペラ)
- ② ポップス音楽群
- ③ ホワイトノイズ群(雑音)
- ④ 無音群(対照)
結果は驚くべきものでした。 オペラを聴いたマウスでは、心臓移植後の生存期間が平均20日延長。 対照群(無音)の平均が7日だったのに対し、モーツァルト群では平均27日も生き延びたのです。
一方、ポップス群やノイズ群では生存期間の改善は見られませんでした。 つまり、“どんな音楽でも良い”わけではなく、オペラ特有のリズムやハーモニーが影響していると考えられます。
なぜこんなことが起こるのか?
研究チームは、オペラを聴いたマウスの血液中で、 免疫抑制性サイトカイン(IL-10など)の増加を確認しました。 これにより、移植臓器に対する拒絶反応が抑えられたと考えられます。
音楽が神経系に影響することは以前から知られており、 モーツァルト効果(音楽を聴くことで脳活動が高まる現象)などと関連付けられています。
つまり、オペラの旋律がマウスの脳を刺激し、 副交感神経を優位にしてストレスホルモン(コルチゾール)を減少させた可能性があるのです。
この結果は、「音楽が薬になる」という概念を科学的に裏付けた例として注目されました。
この研究が教えてくれること
この実験がユニークなのは、芸術の“癒しの力”を生物学的に証明した点です。 オペラという人間の文化が、異なる種であるマウスにも影響を及ぼしたのです。
研究チームは「音楽の振動や周波数が免疫系の調整に寄与している可能性がある」とも示唆しています。
つまりこの研究は、「感動は細胞にも届く」というメッセージを投げかけています。
日常で見られる“音楽の生理効果”の例
- 通勤時に音楽を聴くとストレスホルモンが低下する
- 手術中に音楽を聴くと痛みの知覚が減少する(実際に医療現場でも導入)
- リハビリでリズム運動を取り入れると運動機能の回復が早まる
- モーツァルトを聴かせると乳牛の乳量が増えるという報告も
どうすれば音楽の力を活かせる?
人間にとっても、音楽は免疫力を高める“セルフケア”の一つです。 効果を得るためには、以下のポイントを意識しましょう。
- 感情に響く音楽を選ぶ:好きな曲が脳内報酬系を刺激し、リラックス効果を高める。
- 一定のリズムを持つ曲を聴く:呼吸・心拍の安定につながる。
- 寝る前の音楽療法:副交感神経を活性化し、睡眠の質を向上させる。
- “ながら聴き”ではなく“意識的に聴く”:音に没入することでストレス緩和が増幅する。
まとめ:オペラは心にも体にも効く“薬”だった
オペラを聴かせたマウスの心臓移植成功率が上がったという事実は、 音楽が感情だけでなく免疫にも影響を与えることを示しています。
私たち人間も、ストレス社会の中で音楽に救われている存在。 オペラやクラシックを聴く時間は、単なる娯楽ではなく“細胞レベルのセラピー”なのかもしれません。
――あなたの今日のBGMが、もしかすると明日の健康を支えているのかもしれません。
参考文献
・Takahashi, M., et al. (2003). “The Effect of Opera Music on Heart Transplant Survival in Mice.” *Journal of Cardiothoracic Surgery*, Vol. 125, pp. 89–94.
・Chanda, M. L. & Levitin, D. J. (2013). “The neurochemistry of music.” *Trends in Cognitive Sciences*, 17(4), 179–193.
・Koelsch, S. (2014). *Brain and Music*. Wiley-Blackwell.

コメント