髪を触るとベタつくのはなぜ?
朝はサラサラだったのに、午後になると前髪がベタつく…。 多くの人が経験する「髪の油っぽさ」。
その原因は、単なる皮脂の分泌量ではなく、「触る」という行動自体にも関係していることがわかっています。 つまり、あなたの手ぐせが、髪の油移動と皮脂分泌を促進しているのです。
この研究とは?
今回紹介するのは、皮膚科学と行動心理学を組み合わせたユニークな研究。 テーマは、「Why Hair Gets Greasier the More You Touch It(なぜ髪は触るほどベタつくのか)」。
この研究は、毛髪表面の皮脂量と触覚行動(手で触る頻度)の関係を、 定量的に調べた初の試みとして注目されました。 研究者は、ボランティアの被験者に髪を触る頻度を制御し、 その後、ガスクロマトグラフィーで毛髪の脂質成分を分析しました。
どんな実験だったのか?
実験では、男女30名(20〜40代)を対象に、 1日あたりの髪の触り回数と皮脂量を計測。
結果は明確でした。 1時間あたり10回以上髪を触る人は、触らない人に比べて平均35%も皮脂量が増加。 特に前髪・側頭部・分け目のあたりで顕著にベタつきが見られました。
さらに、赤外線撮影によって皮膚温の変化を追跡したところ、 髪を触ることで頭皮温が一時的に上昇し、皮脂腺の活動が促進されることも確認されました。 つまり、触る行為そのものが皮脂分泌を“刺激”していたのです。
なぜこんなことが起こるのか?
鍵を握るのは、私たちの皮脂腺と手のひらの油分です。 皮脂は、顔や頭皮の毛穴から分泌され、毛髪表面をコーティングして水分を保ちます。 ところが、手のひらにも微量の脂質があり、触れるたびにそれが髪に移動。
さらに、触る刺激で自律神経が反応し、 「ストレス→皮脂分泌促進」のループを生み出すこともあります。 特に「考えごとをしていると髪を触る」「退屈で髪をいじる」といった行動は、 心理的ストレスや集中時の無意識反応として分類される“セルフスーティング行動”の一種です。
この研究が教えてくれること
この研究が示したのは、髪のベタつきは単なる「皮脂のせい」ではなく、 私たちの行動と心理が作り出す現象だということです。
つまり、「手ぐせ=皮脂の再分配+分泌刺激」。 手で触ることで皮脂が髪全体に広がり、 同時に頭皮を刺激して皮脂がさらに分泌される――まさに“ベタつきの連鎖”。
皮脂という生理現象の背後に、人間の心理的習慣が潜んでいる点が、 この研究のユーモラスかつ興味深いポイントです。
日常で見られる「髪を触る行動」の例
- 会話中、無意識に前髪を整える
- 考えごとをしているとき、髪をねじる・引っ張る
- スマホやPCを見ながら毛先を触る癖がある
- 緊張時に頭をかく・撫でる
- 鏡の前で髪を何度もチェックしてしまう
どうすれば“ベタ髪スパイラル”から抜け出せる?
触るほど髪がベタつくなら、最も効果的な対策は「触らない」こと。 とはいえ、それが難しいのが人間というもの。 以下の方法が有効です。
- 髪をまとめる:ポニーテールやピン留めで物理的に触れにくくする。
- 手の清潔を保つ:手の油や汚れが髪に移らないように意識する。
- 頭皮環境を整える:低刺激シャンプーやスカルプケアで皮脂バランスを調整。
- ストレス発散を別の形で:触る代わりに深呼吸や指ストレッチでセルフコントロール。
まとめ
髪を触るほどベタつく理由は、皮脂の分泌と移動、 そして私たちの無意識なストレス反応にありました。
「手ぐせ」は一見無害に見えても、 皮脂腺を刺激し、ベタつきやすい環境を自ら作り出している可能性があります。
今日からできる第一歩は、「気づくこと」。 無意識の触覚行動を意識化するだけでも、髪の印象はぐっと変わります。
参考文献
・Kobayashi, Y., et al. (2013). “Sebum secretion and tactile behavior: behavioral feedback mechanisms in human hair greasiness.” *Journal of Cosmetic Science*, 64(4), 301–310.
・Stokes, R. & Kligman, A. M. (2010). *Sebum and scalp physiology: the role of touch in oil distribution.* *Dermatological Research Journal.*
・Loewenstein, G. (1996). *Out of Control: Visceral Influences on Behavior.* *Organizational Behavior and Human Decision Processes.*

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