犬はなぜ“南北を向いてうんち”をするのか?イグ・ノーベル賞に輝いた地磁気うんち実験の真実

あなたの愛犬がうんちをしているとき、どちらを向いているか気にしたことはありますか?
実は、犬はランダムにしゃがんでいるわけではないのです。

2014年のイグ・ノーベル生物学賞を受賞した研究は、「犬は排泄時に地球の磁場(地磁気)に沿って南北方向に体を向ける」ことを発見しました。
しかも、その行動は磁場の変化によって左右されるという、驚くべき結果でした。

今回は、そんな“犬と地球の秘密のコンパス関係”を科学的に掘り下げます。

この研究は?

この研究は、チェコ共和国とドイツの研究チームによるもので、
2013年に発表された論文「Dogs Are Sensitive to Small Variations of the Earth’s Magnetic Field」がもとになっています。

主な著者は動物行動学者の Hynek Burda ら。
彼らは、犬が地球の磁場を感じ取れる“磁気感覚”を持っているのではないかと考え、長期にわたる観察を行いました。

一言で言うと、この研究は「犬が地球の磁場に反応して行動する」ことを初めて定量的に証明したものです。

どんな実験だったのか?

実験方法は非常に地道かつユニークでした。
研究チームは37犬種・70匹の犬を対象に、
2年間にわたり1,893回の排泄行動(うんち・おしっこ)を観察・記録しました。

観察場所は屋外で、毎回GPSとコンパスを用いて犬の体の向きと磁場の状態を測定。
また、地磁気の乱れ(磁気嵐など)があるかどうかも同時に記録しました。

その結果――
磁場が安定しているとき、犬は南北方向に体をまっすぐ揃えて排泄する傾向が強く、
東西方向にはほとんど向かないことが明らかになりました。

一方で、太陽活動などによって磁場が乱れているときには、
その方向性が乱れ、好き勝手な向きで排泄する傾向が見られたのです。

なぜこんなことが起こるのか?

地磁気は、地球全体を包む“目に見えない磁力線”のこと。
コンパスの針が北を指すのも、この磁場の力によるものです。

研究者たちは、犬がこの磁場を感知できる“磁気感覚(マグネトレセプション)”を持つと考えています。
磁気感覚は、 migratory birds(渡り鳥)や sea turtles(ウミガメ)などが進路を保つために利用している感覚で、
最近の研究では牛やキツネなどにも存在が示唆されています。

犬も同様に、体内にある微細な磁性粒子や網膜の光受容体を通じて磁場の方向を“感じ取る”能力がある可能性があるのです。

つまり、犬にとって南北方向は「落ち着く」「安心できる」方向なのかもしれません。

この研究が教えてくれること

この研究は「犬のうんちの向き」というユーモラスなテーマながら、
実は動物の感覚科学における重要な発見を含んでいます。

これまで磁気感覚は鳥や魚などの一部動物だけが持つと考えられていましたが、
犬のような哺乳類にも備わっている可能性が示されたのです。

また、犬が“自然のコンパス”を頼りに行動しているという事実は、
彼らの行動を観察するうえで新しい視点を与えてくれます。

「犬は人間の言葉はわからないけど、地球の声を聞いている」――そんなロマンを感じさせる研究です。

日常で見られる“磁気感覚”の例

  • 渡り鳥が毎年同じルートで南へ飛ぶ
  • ウミガメが生まれた浜辺に戻って産卵する
  • 牛の群れが草原で南北に並ぶ(衛星写真で確認済み)
  • キツネが狩りのとき北東方向にジャンプしやすい傾向がある
  • 人間でも、磁場の乱れで方角感覚がずれる可能性がある

これらすべてが、「地球の磁場が生き物の行動に影響を与えている」証拠です。
つまり、犬の“南北うんち”も、自然界の大きな法則の一部なのです。

どうすればこの発見を日常に活かせる?

  • ① 犬の散歩中にコンパスアプリを開いてみる
    愛犬が南北を向いているか観察してみよう。意外と当たる。
  • ② 自然のリズムを意識して生活する
    磁場や太陽の動きに敏感な生き物のように、自分の体内時計も意識してみる。
  • ③ 科学を「笑いながら学ぶ」姿勢を持つ
    一見くだらなく見える研究ほど、深い発見が眠っている。
  • ④ ペットの“無意識の行動”を観察する
    そこに、まだ解明されていない自然の秘密が隠れているかもしれない。

まとめ

犬が南北を向いてうんちをする――
このシンプルで笑える観察の裏には、地球と生命の深いつながりがあります。

研究者たちは、地磁気が安定しているときだけ犬が南北方向に整列することを発見し、
その行動が“自然界の磁気感覚”に基づくものだと突き止めました。

イグ・ノーベル賞は「人を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られます。
この研究はまさにその象徴。

次に愛犬と散歩するとき、コンパスを持ってみましょう。
――彼らがどちらを向いているかで、地球の磁場が今どんな顔をしているかがわかるかもしれません。


参考文献:
Hart, V., Nováková, P., Malkemper, E. P., Begall, S., Hanzal, V., Ježek, M., … & Burda, H. (2013). Dogs are sensitive to small variations of the Earth’s magnetic field. Frontiers in Zoology, 10(80).
DOI: 10.1186/1742-9994-10-80
(2014年 イグ・ノーベル生物学賞 受賞)

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