カエルが宙に浮いた!? イグ・ノーベル物理学賞「磁気浮上カエル実験」の驚きの仕組み

カエルが浮いた。しかも磁石の力で。
この一文を読んで「また冗談だろ」と思った人――実は本当の話です。

2000年にイグ・ノーベル物理学賞を受賞した「Magnetic Levitation of a Frog(カエルの磁気浮上)」実験は、
“重力と磁力のバランス”を使って、まるで魔法のようにカエルを宙に浮かせた研究。
科学者の遊び心と真面目な探究心が融合した、物理学史に残る名実験です。

「磁気浮上カエル実験」とは?

この研究を行ったのは、オランダの物理学者 André Geim(アンドレ・ガイム)Michael Berry(マイケル・ベリー)
論文タイトルは「Of Flying Frogs and Levitrons(飛ぶカエルと磁気浮上装置について)」で、2000年に発表されました。

この実験の核心を一言で言うと、「生物も磁場で浮かせられる」という証明です。
しかもそれを、冗談みたいな方法でやってのけたのです。

どんな実験だったのか?

実験の舞台はオランダ・ナイメーヘン大学の強磁場研究所。
ここには、最大で約16テスラ(地球磁場の30万倍)にもなる超電導磁石がありました。

研究チームは、この巨大磁石の中心に小さなガラスチューブを設置。
その中に、生きたカエルをそっと入れて磁場をオンにしました。

すると――カエルが、ふわっと宙に浮いたのです。

まるで重力が消えたかのように、空中でゆらゆらと浮遊する姿は、まさにSF映画さながら。
この実験は当時のBBCニュースでも大きく報じられ、科学者の遊び心として世界を笑顔にしました。

なぜこんなことが起こるのか?

「生き物を磁石で浮かせるなんてどういう原理?」と思うかもしれません。
ポイントは、水(H₂O)が反磁性体であること。

反磁性とは、外から強い磁場をかけると、その方向とは逆向きの磁力を生じて“押し返す”性質のことです。
つまり、磁石に引き寄せられるのではなく、磁石から逃げようとする力が働くのです。

生物の体の約70%は水。
つまり、人間もカエルも、原理的には「磁気で浮かせられる」存在なのです。

16テスラという極めて強い磁場が、地球の重力(約9.8 m/s²)と釣り合ったとき、
反磁性の反発力が重力を“打ち消し”、カエルは見事に浮いた、というわけです。

この研究が教えてくれること

この実験の魅力は、「笑いながらも物理の本質を突いている」ところ。

Geimはこの実験でイグ・ノーベル賞を受賞し、後にグラフェン(単層炭素シート)の発見で本物のノーベル物理学賞も受賞しました。
つまり、同一人物がイグ・ノーベル賞とノーベル賞を両方取った唯一の科学者なのです。

彼は「科学は真面目であると同時に楽しくなければならない」と語っています。
カエルの浮遊は、ユーモアと発想力がいかに革新的な科学を生み出すかを象徴する研究なのです。

日常で見られる“反磁性”の例

  • グラファイト(鉛筆の芯)を磁石で押し返す実験
  • 磁気浮上列車(リニアモーターカー)の浮上原理
  • 液体窒素を使った超伝導体の磁気浮上(マイスナー効果)
  • MRI装置で人体が浮かない理由も「反磁性が弱い」から
  • アルミホイルや水滴も、強磁場ではわずかに浮かせることができる

つまり、カエルの浮上は“自然界に普遍的に存在する性質”を極端に再現しただけ。
でもそれを実際にやって見せたところが、イグ・ノーベル級のセンスなのです。

どうすればこの発想を日常に活かせる?

  • ① 「無駄そうなこと」にも挑戦する
    一見くだらないアイデアこそ、想像力の種になる。
  • ② 楽しむことを忘れない
    科学も仕事も、遊び心が突破口を作る。
  • ③ 失敗を恐れず、実験してみる
    「できるかどうか」より「やってみるかどうか」。
  • ④ 学問にユーモアを持ち込む
    笑いは創造のエネルギー。真面目すぎると発想が固まる。

カエルが浮いたのは偶然ではなく、「真面目な科学と遊び心の融合」の結果だったのです。

まとめ

カエルを磁石で浮かせる――そんな奇抜なアイデアが、実際に科学として成立した。
それが「Magnetic Levitation of a Frog」の魅力です。

この研究は、物理法則の理解を深めただけでなく、
科学における“好奇心の力”を再認識させてくれました。

どんなに突拍子もない発想でも、「なぜ?」と考え、試してみること。
――その小さな一歩が、世界を変える大発見につながるのです。
今日も、あなたの中に眠る“浮かぶカエル”を目覚めさせてみませんか?


参考文献:
Geim, A. K., & Berry, M. V. (1997). Of Flying Frogs and Levitrons. European Journal of Physics, 18(4), 307–313.
DOI: 10.1088/0143-0807/18/4/012

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