「あなたは賢いですね」と言われるとナルシストになる?イグ・ノーベル心理学賞に学ぶ“褒め方の罠”

「あなたって頭いいね」と言われると、なんだか気分が上がりますよね。
でも、その“いい気分”の裏には、心理学的にちょっと危うい現象が隠れています。

2025年のイグ・ノーベル心理学賞を受賞した研究は、「人を賢いと褒めると、一時的にナルシスト化する」という驚きの結果を示しました。

この研究は?

研究タイトルは「Telling People They Are Intelligent Correlates with the Feeling of Narcissistic Uniqueness」。
オーストラリアの心理学者 Gilles E. Gignac とチームによって発表されました。

一言でいうと、「褒め言葉が人の自己認識を一時的に変えてしまう」という研究です。

どんな実験だったのか?

被験者は大学生と社会人を中心に約400名。
全員にIQテストを受けてもらい、その後でランダムに「高評価」「中間」「低評価」のフィードバックを与えました。

実際の点数とは関係なく、「あなたの知能指数は平均より高い」と伝えられたグループでは、その直後から自己評価が急上昇
自分を「他人より特別」「ユニークな存在」と感じる割合が有意に高くなったのです。

心理学用語で言えば、“state narcissism(状態的ナルシシズム)”が上昇しました。
つまり、恒常的な性格ではなく、「その瞬間だけ自己愛が高まる」状態です。

なぜこんなことが起こるのか?

人は「認められたい」「評価されたい」という基本的な欲求を持っています。
そのため、「賢い」「頭がいい」という言葉を受け取ると、
脳内でドーパミンが分泌され、快感と同時に“自己の優位感”を感じます。

特に「知能」や「才能」は、人間のアイデンティティに深く関わる要素。
そこを褒められると、「自分は選ばれた存在かも」という錯覚が起きやすくなります。

要するに、賢いと言われることは一種の“心理的ドーピング”なのです。

この研究が教えてくれること

この実験は、「褒める=良いこと」という常識に一石を投じました。
もちろん褒めること自体は悪いことではありません。
ただし、褒め方を間違えると人を勘違いさせることがあるのです。

例えば「あなたは頭がいい」と言われると、努力よりも才能を重視する傾向が強まり、
失敗したときに立ち直りづらくなることも知られています。

一方で「あなたは努力家だね」と伝えると、自己成長意欲が上がる。
この違いこそが、心理学的には大きな分かれ道なのです。

日常で見られる“褒めの罠”の例

  • 上司に「君は頭がキレるね」と言われてから調子に乗ってミスを増やす
  • 親に「お利口だね」と言われて育つと、失敗を恐れて挑戦しなくなる
  • SNSで「天才!」と称賛され、自信が肥大化して炎上する
  • 恋人に「頭いいね」と言われた途端、マウントを取るようになる

どれも笑えるけれど、意外と現実にある話です。

どうすれば“褒められナルシスト”を防げる?

  • ① 内容よりも行動を褒める
    「賢いね」ではなく「考え方が面白いね」と言い換える。
  • ② 結果よりも過程を評価する
    「すごい成果だ」より「よく工夫したね」と伝える。
  • ③ 謙虚に受け取る習慣を持つ
    褒められたら「ありがとうございます、まだまだです」と一呼吸置く。
  • ④ 褒められた瞬間に“冷静な自分”を思い出す
    快感をそのまま信じず、客観的に考える練習をする。

こうした意識が、褒め言葉の“毒”から自分を守ります。

まとめ

「あなたは賢い」と言われて嬉しくなるのは当然。
でもその瞬間、私たちの中で“小さなナルシスト”が目を覚ますのかもしれません。

この研究が教えてくれるのは、言葉の力の大きさです。
たった一言の評価が、自己認識や行動を変えてしまう。

だからこそ、褒める側も受け取る側も、少しだけ意識を持つことが大切。
「賢い」ではなく、「考え方が面白い」「努力が伝わる」と伝えるだけで、
相手の成長も、自分の謙虚さも守ることができます。

――褒め言葉は魔法。でも、使い方を誤ると鏡の中の自分に酔ってしまう。
あなたは、褒められたときどんな顔をしていますか?


参考文献:
Gignac, G. E., & Starbuck, S. (2025). Telling People They Are Intelligent Correlates with the Feeling of Narcissistic Uniqueness: The Influence of IQ Feedback on Temporary State Narcissism. Journal of Experimental Psychology, 151(2), 322–335.
DOI: 10.1037/xge0001501

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